新しい季節の訪れを告げる花。一年に一度だけ木々に実り、恵みをもたらす果実――。心に触れる自然の色は、やさしさとぬくもりに満ちています。そんな自然の色彩を映しとった「ボタニカ」が誕生しました。
自然の色彩には、たおやかな揺らぎと複雑に色が混じりあうことで生まれる奥深さがあります。
gentenでは、そんな自然の色彩を革に用いることはできないかと考え、国内のタンナーとともに10年以上前から試作研究を重ねてきました。
今回ようやく形にすることができた「ボタニカ」。その誕生の背景や魅力をお届けします。
革は、地生(じなま)と呼ばれるやわらかな国内産の牛原皮を選びました。それを化学染料に頼ることなく、植物が持っているタンニンだけで染めています。
タンニンとは「渋」のことで、渋柿などを渋くしている成分そのものです。緑茶や赤ワインに渋みを加えているポリフェノールもタンニンの一つです。
不思議なもので、タンニンには動物の皮を収縮させる力があります。タンニンで鞣された革は、繊維が丈夫になって引き締まります。自然から生まれたもの同士の掛け算で、皮は「革」になるのです。
ボタニカは、「赤ワイン」、「ミモザ」、「チェストナット(栗)」の3つの素材のタンニンを生かしてそれぞれ染めています。バッグの色名も素材からそのまま名付けました。
「チェストナット」は、栗の樹皮から採れるタンニンに酸化鉄を加えて色を変化させています。日本では、昔から鉄釘を植物染めの色止めとして用いており、その知恵を生かしました。
春先に黄色い花を咲かせるミモザ。「ミモザ」はその樹皮から採れるタンニンを使って染めています。
写真はチェストナットとミモザの試作段階の革。濃淡の異なるさまざまな革はどれも植物タンニンのみで染めたものです。
様々な種の植物タンニンで試作を繰り返す中で、今回の季節感に最適なグレー色に仕上がった「チェストナット」と、おだやかなキャメル色に仕上がった「ミモザ」を採用しました。
ミモザもチェストナットも、触れるとやわらかさと弾力が掌から伝わってくる、そんな風合いの革です。タンニンの鞣しにクロムフリー鞣しを掛け合わせることで、やわらかく仕上げました。
家で過ごすひとときにワインを口にする方も増えたのではないでしょうか。日本のワイン消費量は1970年代から徐々に伸び、今では一人当たり年間約4本分を消費しています。※
※国税庁調査(2017年の結果)より、ワインボトル750ml換算
ワインを作る際に大量に廃棄されるブドウの皮や種。そのまま捨てるのではなく、活用することができないか、その一つの方法として生まれたのが今回の革の染色です。
ブドウの皮や種を染色に用いた「赤ワイン」の革は、サステナブルレザー「LEZZA BOTANICA(レッザボタニカ®)」の技術を採用しています。
gentenのブランドコンセプトに基づき、より自然そのもののナチュラルな色と風合い、柔らかな肌触りを目指して。LEZZA BOTANICAの技術をもとに、gentenオリジナルの仕上がりを開発しました。
仕上がったサンプルの革は、優しさと深みを感じられる穏やかなピンク色。柔らかさの中にもタンニン鞣しならではの程よいコシが感じられる風合いに仕上がりました。
ところが、一筋縄ではいかないのが天然素材による染色。
いざ製品用の本番の革を染め始めると、驚くほど鮮明な濃いピンクに。誰も予想していなかった事態に、頭を抱えました。
染色後の革に洗いをかけては確認、これを幾度も繰り返し、仕上げの微調整を経て、ようやく元の理想の色味を再現することができました。
今回の染色では、長野のワイナリーから譲っていただいたメルロー種のブドウを使用しています。ブドウを使用することで、革に植物由来の成分による抗菌・消臭効果が含まれています。※
※抗菌効果:5.7前後(2.2以上抗菌)・消臭効果96%以上(カケン調べ)
赤ワインは先の2色と違い、タンニンのみで鞣しているため、ハリとコシがある手触り。付き合っていくうちに、徐々にやわらかく馴染んでゆきます。
どの色も植物だからこそ、その時々の気候、温度変化によって仕上がりの色に個体差が生じます。化学染料にはない、自然ならではの揺らぎ。それこそがボタニカの魅力でもあります。
「ボタニカ」は、奥行きのある色味と国内産の牛革の手触りを楽しんでもらうため、一枚仕立てのシンプルな袋型に仕上げました。側面のマチ部分を折り畳むとフラットに。中に入れる物によって自然と底面にマチができるつくりです。 革そのものの風合いと景色を存分に感じられるよう、前面には“はぎ”を取らないデザインにしました。
手ひもを長めに取ってあるので、さらりと肩に掛けやすく、また軽量です。
どの色も落ち着いたおだやかな色味で、コーディネートを選ばず、幅広くお使いいただけます。
背面と内装にはポケットが一つずつ。このポケットは、バッグを作る際に出る裁ち落としの革を活用しています。大切な革を余すことなく使うgentenらしい工夫が隠れています。
ボタニカの革は、まるで素肌そのもの。一般的な革の染色は、革表面に染料を吹きかけて、色を均一化させて仕上げますが、ボタニカは100%自然由来のカラーにこだわり、それを行っていません。故に、革本来のもつ風合いがありのまま、表面に生かされます。
写真のような小さなキズやシミも革の風合いの一つ。塗りつぶして隠すことをせずにそのまま生かします。ありのままの素材の個性としてお楽しみください。
時と共に色が変わっていくのも、化学染料にはない、植物タンニン染めならではの魅力。
どの色も使うほどに味わいを増し、深みのある色へと育ってゆきます。
このポーチはバッグを裁断した時の手ひもの間の部分を使って作っています。自然の恵みであり、手間暇をかけた革を余すことなく使えるように。gentenの想いが詰まったポーチです。
デザインはディテールをそぎ落としシンプルに。サイズは約19.5×12.5cmなので、通帳やパスポートなどを入れることもできます。
ポーチは手で触れる機会が多いものなので、経年変化を存分に楽しむことができます。バッグとお揃いにしても、あえて異なるカラーを選んでみても◎。
植物タンニンで染め上がった色彩は、季節の移ろいを楽しむように、経年変化を楽しむことができます。自然の持つ優しく奥深い色味に触れ、五感が満たされる。ボタニカがあなたにとってそんな存在となれば幸いです。
使ってゆくうちに乾燥が気になりだした場合は、gentenのクリームをお使いいただけます。色が少し濃くなりますので、内装のポケットや底面など、目立たない場所で試してからのご使用をおすすめします。特にチェストナットは、お手入れによる色の変化が起きやすいのでご注意ください。
基本的に水染みがしにくい革ですが、防水スプレー(アメダス)をお使いになる場合、赤ワインとミモザのみご使用いただけます(チェストナットは推奨しておりません)。